原子力撤廃

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原子力撤廃(げんしりょくてっぱい、英:Abolition of nuclear power)とは、原子力の使用を中止することである。反原発運動の最終的な目標である。

目次

経緯

ヨーロッパにおける原子力撤廃政策の推移

原子力撤廃はスウェーデン1980年)、イタリア1987年)、ベルギー1999年)、そしてドイツ2000年)で政策化された。1990年から2000年代前半の原油価格の下落、火力発電の効率向上により原子力の経済性が低下したため発言力を得たとされる。1986年4月26日に発生したチェルノブイリ原子力発電所事故も大きな影響があったと考えられている。

ドイツでは2005年9月18日に行われたドイツ総選挙で、それまで政権を取っていたドイツ社会民主党(SDP)に代わり、原子力推進または堅持の傾向があるドイツキリスト教民主同盟(CDU)が第一党になったため、ドイツでの原子力政策が変わるのではないかと考えられた。しかしその後、CDUはSDPと大連立を組んだため、ゲアハルト・シュレーダー前政権の「脱原子力(=原子力撤廃)政策」が継承されることとなった。 2009年9月27日に行われたドイツ総選挙では、今まで連立政権を構成していたSDPが連立から外れ、中道政党の自由民主党が政権に入る見通しとなった。脱原子力政策を主導してきたSDPが政権から離脱したことから、ドイツの脱原子力政策の行方が注目されていたが、2009年10月24日に連立政権の政策合意として、脱原子力政策の見直しが一致したため[1]、脱原子力政策は変更される可能性が高い。

一方で、近年の原油価格高騰及び二酸化炭素排出量削減の必要性により、原子力撤廃政策を見直そうという議論も始まっている。ドイツの2001年8月の世論調査では、47%が2000年の原子力発電撤廃合意の実効性を疑問視し、将来的に別の政権によって脱原発政策が放棄される可能性があると答えた。スウェーデンでは2004年8月の世論調査において81%が原子力発電の継続を支持した。スイスで2003年に行われた国民投票では、脱原発政策は賛成34%、反対66%と大差で否決されている[2]

また2009年2月にはスウェーデン政府が1980年の国民投票において決まった原発の段階的廃止という方針を修正した[3]。再生エネルギーの開発・普及や省エネの促進によるエネルギー構造の転換は今後も続けていくものの、既存の10基の原子炉の寿命が来た際に新設原子炉による更新が必要とされれば、その更新を認めるという決定を行った[4]。また、一時は原子力撤廃を掲げたイタリアも、2009年2月にフランスの協力で4カ所の原発を新設するなど、方針転換している[5]

日本における反原発世論の形成

日本における原子力発電の始まりは1957年であるが、日本初の原子炉である東海村の実験用原子炉JRR-1が運転開始した当時の報道は、極めて好意的な論調であった。また1963年の動力試験炉運転開始、1969年原子力船むつの進水も「明るいニュース」として報じられた[6]。またこの時期の日本の漫画作品に登場した架空の国産ロボット「鉄腕アトム」や、1970年代の「ドラえもん」も小型原子炉による駆動という設定であった [7]

原子力発電への大規模な反対運動が始まったきっかけとして指摘されるのは、1971年5月にアメリカのアイダホ州にある国立原子力研究所で緊急炉心冷却装置の実験を行った際、緊急炉心冷却装置がうまく作動しなかったという事件である。この事件をきっかけとしてアメリカ各地で反原発運動が始まり、これが飛び火する形で日本にも広まった。その最初期の事例が伊方原発の建設反対運動で、1973年には衆議院に特別委員会が設けられて専門家の意見を聴取するという事態となった[8]

1974年に原子力船むつの放射能漏れが報道され、母港むつ市の市民から帰港をボイコットされた。

1979年スリーマイル島原発2号機の事故は日本国内の反原発運動にはあまり影響を与えなかったとされる[9]

日本の反原発運動の大きな転換点となったのは1986年チェルノブイリ原発事故である。チェルノブイリ原発事故は、その規模の大きさと深刻さから世界的にセンセーショナルに報道されたが、日本もその例外ではなかった。原子力事故への恐怖を掻き立てただけではなく、残留廃棄物の処理問題など、それまであまり注目されることのなかった懸念事項が注目されるきっかけにもなった。

1986年8月、ジャーナリスト広瀬隆は『東京に原発を!』の改訂版を出版し[10]、続いて『危険な話』を執筆した。広瀬の著書は30万部を超える大ヒットとなり、広瀬の講演会は東日本を中心に頻繁に開催された。この状況は「ヒロセタカシ現象」とも呼ばれ、それまで原子力発電にはあまり興味を持っていなかった若者や若い主婦の間に、原子力発電への感情的な反発が広まった。ヒロセタカシ現象は1988年に日本科学者会議が開催したシンポジウムにおいて、複数の研究者が内容の誤りと扇情的な筆致の問題点を指摘したことで一定の沈静を見た[11]

世論調査における原子力発電への賛否について1981年に東京都でNHKが行った調査では78.4%が原子力発電に賛成していたが、1986年8月の朝日新聞の調査では、賛成34%、反対41%となった[12]

一方で、日本のマスコミの論調は原子力発電への不安を過度に煽るものが続いているとして、その問題点を指摘する声もある。元NHK解説委員の長岡昌、元朝日新聞科学部長の尾崎正直、元読売新聞論説委員の中村政雄らは、「原子力報道を考える会」というNPOを設立して原子力発電関係の報道姿勢が危険性の強調一辺倒であるという問題についての批判を行っている[13]

2000年代に入り、地球温暖化問題が注目されるようになると、エコロジーの観点から二酸化炭素を出さない原子力発電への世論は再び肯定的なものに変化している。2009年10月に内閣府が行った世論調査によれば、原子力発電の今後について「推進していく」との回答が59.6%となり、「廃止」の16.2%を上回った。一方、原子力発電の安全性については「不安」が53.9%で、「安心」の41.8%を上回っている[14]

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原子力撤廃への反論

地球温暖化との関係

近年の地球温暖化に対する世界的な危機感によって、温暖化を促進する二酸化炭素の排出量が火力発電に比して少ない(発電プロセスそのものでの二酸化炭素発生はないが、燃料濃縮にエネルギーの投入が必要となるほか、ウラン採掘や施設建設の際にも二酸化炭素を排出するので「原子力発電所は温室効果ガスを発生しない」というのは厳密には誤り)という原子力発電の利点に注目が集まっている。

なお、反原発派の人々の多くが同時に地球温暖化問題に敏感な層でもあり、彼らの多くは火力発電への回帰ではなく、太陽光発電風力発電バイオマスといった再生可能エネルギーや、燃料電池を活用した分散型電源への転換を主張している(一部は核融合炉の開発を支持している)。現時点で再生可能エネルギーでは全ての電力需要は賄えないということもあり、EU諸国や北米では地球温暖化対策の一つとして原子力発電へのシフトが政治課題として浮上してきている。

原油価格高騰問題

2007年頃から急激な上昇を見せた原油価格の高騰は、原子力発電推進の材料となっている。2008年7月の洞爺湖サミットでは、原油価格高騰対策として原子力発電を世界的に推進し、中国やインドにも原子力発電の利用を積極的に働きかけるという方向性で、参加各国の合意を見ることとなった[15]

参考書籍

関連項目

  1. ^ "ドイツ、脱原発政策修正へ 保守・中道連立で最終合意". 共同通信. 2009年10月26日 閲覧。
  2. ^ 中村政雄 『原子力と報道 中公新書ラクレ157』 中央公論新社 50-56頁 ISBN 978-4-12-150157-8
  3. ^ "スウェーデン、脱原発政策を転換 温暖化対策で建設容認". 日本経済新聞. 2009年2月6日 閲覧。
  4. ^ "「スウェーデンが原発新設」報道の真相". [スウェーデンの今]. 2009年5月20日 閲覧。
  5. ^ "イタリア“脱・脱原発”に転換、仏との協力協定に署名". 読売新聞. 2009年2月25日 閲覧。
  6. ^ 中村、前掲書、18-24頁
  7. ^ ただし、ドラえもんの原子炉は人間同様に食事をしたものを直接エネルギーに変換するというもので、現在の原子力発電で用いられる原子炉とは動作原理が全く異なるようである。鉄腕アトムでは1980年に放映されたアニメ版で設定が変更されている。
  8. ^ 中村、前掲書、27-30頁
  9. ^ 中村、前掲書
  10. ^ 初版はJICC出版局から1981年に出版されていた。1986年8月に集英社文庫から改訂版が出版された。
  11. ^ 「政界ジャーナル」編集部・監修『つくられた恐怖 「危険な話」の誤り』紀尾井書房、1989年、ISBN 978-4765610551
  12. ^ 中村、前掲書、31-41頁
  13. ^ 中村、前掲書、148頁以降
  14. ^ 原発世論調査 ようやく半数が「原子力発電はエコ」を認識”. 産経新聞. (2009-11-26). http://sankei.jp.msn.com/life/environment/091126/env0911261829004-n1.htm 2009-11-27 閲覧。 
  15. ^ 原発推進へ協力強化、原油価格を抑制…サミット首脳宣言

参考文献

  • 『原子力ルネサンスの風 海外最新レポート』電気新聞海外取材班 日本電気協会新聞部 ISBN 4902553279

外部リンク